まどろみ、うたたね、夢をみるそれは、ある日ふと、私の隣に現れた。 ある夜のこと。やけに月が明るい夜だった。 窓の外の月は、真っ直ぐ私を照らしていた。 ――月の光が眩しかったから。 私は、スポットライトのように光を当ててくれるそれを眺めながら、自分自身に言い聞かせた。脇役という役割から解放されるかも…written by 春紫苑
エクソシストは要らない1990年代以降、リトアニアは人口のほぼ四分の一を失った。また一部の地域では住民が半分以上減少している。(中略)リトアニアでは社会空間の変化が著しいが、異常な人口減と地域間格差の悪化に対処するための明確な戦略は存在していない。 Rūta Ubarevičienė & Maar…written by akkt
酒呑童子これは一人の女性にまつわる物語である。 ある時、ふと私の前に現れた彼女との威風堂々の記憶をここに綴るのであり、その生態の解明に至る私なりの標べとなる記録である。 この読者諸君におかれては、彼女の艶麗さと私の間抜けっぷりをじっくりと味わっていただくがよろしかろう。 硬く冷や…written by kawaiiyumegirl
眠りゆく者に敬礼を今、GitHubにアップロードされた一枚のファイルをわたしは眺めている。 ソースコードを読むためではない。それを書いた男の記憶に触れ、その手触りを確かめるためだ。 聞く話によれば、彼のアカウントにはガラクタのようなプログラムもどきが散らばっているだけで、正常に動作するものは…written by meme
エウリュディケの画筆オディロン・ルドン 『ルドン 私自身に』 1 高層ビルの屋上では、強い風が吹いている。なびく髪を抑えて前方に目へやると、そこには一人の少年がいた。私は、その少年を良く知っている。彼はフェンスの前に立ち、無心で景色を眺めているようだった。風にかたどられた白いシャツが、華奢な骨格…written by nanica marui
バイタルサインおれたち人類は太古の昔から何かを書きのこしたり、とりあえず物として残しておくことが大好きだ。例えば洞窟に獣の油とか樹液を使って描かれた壁画、どうやってくみ上げたかもわからない意味不明のオブジェ、放課後の黒板に描かれた日直の相合傘。 そしてそれは形あるものに限ったことでもない。…written by kawaiiyumegirl
星の夜夏。ギラギラと照りつける日差しが、白い校舎に反射し、天国のような真っ白な世界を作り上げている。 そこに、白鳥と呼ばれる彼女と、菖蒲と呼ばれる私がいた。 山奥にぽつりと建てられた私たちの学園は和洋折衷建築で、異彩を放っていた。壁や柱は全て純白で塗装されており、 経年劣化をまるで感…written by 春紫苑
享楽のうた川が流れている。いや、流れていると言えるだろうか。川幅が太く、凍りついたそれは、ほとんど流れているとは言えない。さながら海にまで続く、長い一本の氷の道のようだ。 まだ朝が早い。七時頃だろう。川辺の薄汚いレンガ張りの舗装道に立った少年が、川に何か石のようなものを投げ入れた。小さ…written by akkt
オーバーラップ左耳のモニターからビープ音が鳴る。 仲間からの合図だ。 〈どうだ、システム侵入できそうか?〉 ノイズの混じった通信を無視して、ラップトップを叩き続ける。 雑居ビルの屋上が好きだった。人目につかない上に、見晴らしもよいからだ。 〈おい、聞いてんのかよ!〉 熱のこもった声…written by meme
[lullaby of birdland]Noise: Rain drops Place: Sector - 35094813 都会の雨は錆びた金属の匂いがする。もう三日も降り続いていた。窓から見える薄暗い路地に人陰はなく、アパートの共用庭に植えられたタマリンドの木の葉だけが、まるで幽霊の手のように、音もなく揺れてい…written by nanica marui
末那識の夢どこかで繋がっている。街は村でした。お互いがお互いを知り、ホームとよべる場所がどこなのか知っていました。我々はそのテクノロジーで人々を繋げています。繋がりは万人が求めるひとつの切望です。どこにいたってありのままの自分でいながら歓迎されている、リスペクトされている、認められている…written by kawaiiyumegirl
ディアスポラ東京都北区某所に位置するマンションの巨大な地下室で、内海はPCの画面に連なるコードを目で追っていた。周囲の会話や物音が普段よりも耳に障り、いくらか疲れが溜まっているのだろうと思い当たる。目頭を揉みほぐしてから、大きく息を吸う。肺に溜め込んだ空気をゆっくりと吐き出すと、周囲の話し…written by meme