オーバーラップ

 左耳のモニターからビープ音が鳴る。 

 仲間からの合図だ。

〈どうだ、システム侵入できそうか?〉

 ノイズの混じった通信を無視して、ラップトップを叩き続ける。

 雑居ビルの屋上が好きだった。人目につかない上に、見晴らしもよいからだ。

〈おい、聞いてんのかよ!〉

 熱のこもった声が耳を刺す。

「そう焦るなって。まずはこいつに探索させる」

 小型無人機を取り出して、屋上の床に設置する。

〈こいつってどいつだよ。もしかして、おれたちがお前を殺しかけたこと、まだ根に持ってんのか?〉

「当たり前だろ」

 ドローンの光学迷彩を有効化しながら、当時を思い出す。

 二年前のことだ。殺されかけたことには違いないが、本音をいえば恨んでなどいなかった。口には出さないが、むしろ感謝さえしている。あのコミューンでの出来事がなければ、いまの自分はいない。

〈ふん、まあいいさ。唯川、そっちは任せたぞ。適宜連絡しろ〉

「了解」

 エンターキーを叩き、ドローンが問題なく飛行するのを見届けると、唯川はヘッドセットを目元までずり下げて、ボイスコマンドで起動させた。システム侵入に最適化された仮想インターフェイスが視界に広がる。

 正気を確かめるために、何やら言葉を呟く。二年前、あの丘の上でリゲルが発した声明と同じ文言だ。

 だいじょうぶ。これはただの狂気なんかじゃない。

 インターフェイス越しに、ビル群の上空を進むドローンを眺める。

 その間だけは、二重写しの世界が一つになって見えた。